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約束

セラピストライフ

セラピストをやっていると思わぬ出会いをさせていただくことがあります。

今日はそんなお話を。

ふらりとやってきた白髪の女性

1年半ほど前のある日のこと。

ツヤのある豊かな白髪が美しい、色白で小柄の穏やかな女性が、整骨院の私を訪ねてきてくださいました。どこかで私のことを耳にされたらしく「オイルトリートメントはおろか着衣でのマッサージも受けたことがないのだけれど、一度あなたの施術を受けてみたいのです」と、生まれて初めての施術を私に任せてくださったのでした。

それから約1年と半年。

初回で服を脱ぐのもためらわれ緊張されていたのがまるで嘘のように、いまではすっかりリラックスされて、2週間に1度、ずっと変わらないペースで60分のトリートメントのために定期的に通ってくださっています。

トリートメントのたびにこの2週間の間のできごとなど色々お話くださるのですが、これまで、どなたから私のことをお聞きになったのか、またどんな経緯があって通ってくださるようになったのか、詳しいお話はされていませんでしたし、私も特に根掘り葉掘り聞くようなことはしていませんでした。

実は思いもかけない縁だった

ところがある日のトリートメントの最中のこと。

その方がしみじみと「息子に感謝しなくちゃね。こんな贅沢をさせてもらっていることと、あなたに会わせてくれたことに」とおっしゃるのです。

聞いてみると、私のところへ通うのを強くすすめたのは、息子さんだというではありませんか。

そのとき「はっ」と私の脳裏によみがえった記憶がありました。女性が初めて私をたずねてくださった少し前でしょうか、50代なかばの小柄で品のいい男性の施術をさせていただいたことがあったのです。

みえたのはその1度きりなのですが、おもいのほかご満足いただいたこととその柔らかな物腰と笑顔が印象的で、いまでも時々なにかの拍子にふっと思い出し「どうされているのかしら」と気になっている方のおひとりでした。

あとで慌ててカルテを確認すると、やはり女性の息子さんでした。

あの子はね、まず最初に自分であなたの施術を受けてみて「大丈夫」と思ったから私にすすめてくれたの。「母さん、あの人なら絶対間違いないから安心してやってもらってきなよ。きっと気に入るよ」て。

あの日、息子さんが貴重な休日を半分潰して私の施術を受けにいらしたのは、自分のためでなく母親のためだったのですね。私はそれを知って母親を思う息子さんの心の柔らかな一端に触れた気がして、感激で目の奥が熱くなってしまいました。

さらに女性は続けます。

「もういい歳のおばあちゃんになってこんな贅沢させてもらうなんて、私だけ悪いわ」って言うとこう言うのよ。「母さん、トリートメントは贅沢のためなんかじゃないんだよ。この先も健康で長生きするために受けるんだよ」って・・・

ここまで聞いた私は、胸がいっぱいになってしまいました。それといっしょに、通常では他人には預けることのない、家族間の優しさや思いやりや暖かさみたいなものを託された気がして、ぐぐぐと気持ちが引き締まる思いがしました。

そしておふたりがリラクゼーションとQOLの関係とその効果をしっかりと理解し期待されていることにも・・・!

街角のちっちゃな整骨院のすみっこで細々とトリートメントをしているちっぽけな私にそんな重要な役割を与えてくださること。ほんとうにもったいなくて身に余る心持ちですが、これまで以上に心を込めて、丁寧にていねいに施術にあたろう。

そのときできる私のベストで出し尽くそう。

そう思いを新たにしました。

その後・・・
さて今では。

女性の娘さんも通ってくださるようになって随分にぎやかになっているのですが、おふたりをここへ繋げてくださった肝心の息子さんご本人は結局あれきり現れません。

やはり、男性には全裸で受けるオイルトリートメントは気持ち的にも敷居が高いのかな。

女性はもちろん、社会の荒波のなか身体と心を張って戦っている男性にも、もっともっとリラクゼーションの醍醐味を味わっていただきたいのですけどね。

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