肉体に特化したフィジカルワークで行うアロマトリートメント前には毎回、コンサルテーションという時間を設け、お悩みやトリートメントの目的をお聞きします。
そのなかでその日のトリートメントで使用する精油を選んでいただくとても重要なプロセスがあります。
私はこの時間をとてもたいせつにしています。
なぜならこれは香りというツールを通してご自分の心と自由に対話していただくトリートメントの導入部でもあり、クライアントの心の扉を開けるとてもリチュアルな時間だからです。
アロマセラピストとして現場に出てお客様が精油を選ぶのを拝見していて、私はある特徴に気づきました。
そして精油が思わぬ働き方をすることにも気づきました。
今日はそんなお話です。
直感型と精油選びと理論型の精油選び
この精油選びのプロセスで、私がいつも面白いなあと思うことがあります。
まったく同じ条件で精油を選んでいるのにもかかわらず、直感や感性で選ぶのが得意な方と、理屈で選ぶのが得意な方に分かれるのです。
感性で選ぶのが得意な方々は、なんのためらいもなく精油の瓶に手を伸ばし、精油の名前などそっちのけで香りを自由に堪能し、また香りの好き嫌いも即座に反応されます。
対して理屈で選ぶのが得意な方々は、まず精油の名前や薬理効果を確認してからやっとはじめて慎重に香りを嗅ぎ、また香りの好みの理由づけも理論的です。
前者はなぜその精油を選んだかと聞かれれば「これ好き!いい香り!」という単純な返事が即答でかえってきます。
後者の場合は理由の説明にやや時間がかかります。
これからご紹介するのはまだボディワーカーとして駆け出しの頃の私の体験談です。(クライアントのプライバシーをまもるため一部事実とは異なります)
当時は単なる失敗談だと思っていましたが、この体験からは、いまでもなお段階的に学ぶことがたくさんあります。
Aさんとある精油
ある日のことです。当時ご贔屓くださっていたAさんが電話をくださって、こうおっしゃいました。
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新幹線で読んだ雑誌に、クロモジという日本の精油が紹介されていたの。私、その記事を読んで生産者の熱い思いにとても感動しちゃったの。あの精油、ぜひ香りをかいでみたいわ。あなたのところで次のトリートメントに使ってくれないかしら。
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その方のおっしゃるクロモジとは漢字で「 黒文字 」と書き、国内のある会社が販売している精油のことで、日本が世界に誇れる和の精油として知られている香りです。
お約束の日に足取り軽くやってきたAさんは、はじめて嗅ぐクロモジの香りにたいへん感激されました。「いい香り、やっぱり思い描いていた通りの香りだわ!」
そしてその日のトリートメントはとてもスムーズでした。
室内に広がるクロモジの香りに包まれてAさんは終始ご満悦でしたし、施術しながら私はいつもより身体がゆるむのが格段に早いと感じていました。
「心に響く香りとは、ここまで人の身体を緩ませるものなのねえ」と私も改めて感心したものです。
それ以降、クロモジはAさんのトリートメントにはなくてはならないものになりました。
ところがそんなある日、事件が起きました。
その日Aさんには「今日はちょっと変わったことをしましょう」と精油の名前を伏せてブラインドで複数の精油を嗅いでいただいていました。
やったことのある方だとお分かりかと思いますが、香りを嗅ぐ前にそれがなんの香りか先入観なしで行うと、これまで気づかなかったまったく違った香りの側面に触れることができます。
「この香りはオレンジだ」と知っていて嗅ぐオレンジの香りと、なにも知らされずに嗅ぐオレンジでは、その感じ方がまったく異なるのです。
Aさんにそんな感覚の違いの面白さを味わっていただこうとご提案した遊びでした。
やがてすべての香りを嗅ぎ終わったAさんは、不快さをあらわにこう言いました。
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どれもうっとりするくらいいい香りなんだけど、この中に1本だけ、はじめて嗅ぐ知らない香りがあったわ。その香りだけ、私はあまり好きじゃない。というよりなんというか、不快で腹立たしいくらいだったわ。
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珍しいですね、Aさんにも苦手な香りがあるんですね、などと言いながら、その方が指で指したムエット(試香紙=精油を垂らして香りを確認するための専門の紙片)を確認してみると・・・
なんと、それこそがクロモジの香りだったんです。
お互い顔を見合わせてしまいました。
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(ありえないわ! だってこれは私の香りなのに!)
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言葉を失ったまま、Aさんの目はそう語っていました。
しかしこれほどまでに激しい好き嫌いは別としても、体調や気分で人の香りの好みは日々変化します。
そのことをご説明しようと口を開きかけた途端、Aさんの口からこんな言葉が飛び出しました。
・・・でもだってこれ・・・高価でしかもとても珍しい精油でしょ?・・・
その瞬間、ああ、そうか、と私は思いました。
Aさんはもしかしたらクロモジの香りというより、そのバックグラウンドストーリーにこそ惹かれていたのかもしれません。
日本の豊かな山林で育てられた樹木を原料とした希少な精油であること、生産者の熱意が込められた精油であること、一般的な精油と比べると少しだけお値段が張ること。
雑誌の記事に書かれていたクロモジ精油の魅力すべてが、Aさんにとってはクロモジの香りであり価値だったわけです。
だからこそその香りを嗅ぐと心地よいと感じたのだし、その特別な精油で受けるトリートメントは至福のときだったわけです。毎回それほど圧を加えなくとも、するすると解けるように身体が緩んでいたのが何よりの証拠でした。
しかし頭でそれだとわかっているから心地よく感じていたものが、何も前情報がない状態では不快に感じるとは。
思考が人の好みを少なからず左右するだろうことは予想していましたが、この事実は私の想像をはるかに超えていました。
しかもこれじゃ、まるでセラピストが魔法を解いてしまったようなものだ、とそのときの私はずいぶん落ち込みもしました。
しかしこのできごとは、のちに大きな気づきを段階的にいくつももたらしてくれました。
まず、人がものをとらえるとき、ものの本質とは別にその背景やイメージに容易に左右されるのだと気づかせてくれました。
そしてのちに、それが真のよろこびからズレていても、エゴ(思考)の支配を受ければ肉体はいとも簡単にそちらに反応するのだとも教えてくれました。
つまり、例えそれが不快な感覚であったとしてもエゴが満足さえしていればそちらが優先し、その満足感は肉体まで満足させてしまうのですね。
心地よさや素晴らしさを感じるのに、その意味を考えるなんてナンセンスだと私は思います。
クリスタルにしろ精油にしろ、なぜそれが素晴らしいのかなんて、ほんとうは理由なんてどうでもいいんです。
香りと同調する、クリスタルと共鳴する。
感性を開いてまっさらな状態で、自分の内側のわずかな揺れを見逃さずに素直に反応する。
言葉にしたらこんな単純なことですが、生産性に富んだひとつの正解を重視する現代社会では、これは思うよりはるかに難しいのかもしれません。
現代人はきっと「答え合わせ」をすることに慣れ過ぎてしまったのだと思います。
自分の感覚を信じて自分だけのひとつを見つけることは、このままいったら訓練なしではなしえない特殊技能になってしまうかも?などと思うこのごろです。
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